初恋に破れて

私はこの間ある未亡人-三十四、五の方で、お子さんもひとりいるのですが-と、ちょっと
した会合の席で知合いになり、会が終ってからいろいろ話し合いました。
彼女は、あなたとちがって、初恋に成功し、初恋の人と結婚し、子供さんまでひとり恵まれた
のですが、三年ほど前に、その初恋の夫なる人は病気で急に亡くなられたのだそうです。いろい
ろ話し合った末に、もう二度と結婚なさらないのですか、とまじめにききましたところ、彼女は
こう答えてくれました。もちろん、まじめな顔で、まじめな口調で。
「そんなことありませんわ、好きな人がわたしの生活の中に現われてくれれば、そしてその方と
結婚できるんでしたら、喜んでしますわ。初恋の夫は、胸の底ふかくカッコに入れておいて」
異性に対する愛情は一度燃え上がれば、それでぜんぶなくなってしまうようなケチなものでは
ありません。幸か不幸か、私たちは幾度か恋ができるのです。あなたはいま、あなたの愛する力
がぜんぶなくなってしまったように考えておられるかもしれません。恋する心は一度だけしか純
粋には燃えあがらぬものだとひとりぎめしていらっしゃるかもしれません。しかし、そんなこと
は絶対にないのです。女性が一人一人、たった一枚の心の乾板をもっていて、その一枚の愛情の
乾板に、初恋の人を写しとれば、もはや、それでおしまいになるといったものではありません。
あなたはまだ恋ができます。これを忘れないでください。

出典:
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